晩秋の一夜、歌曲『冬の旅』を聴き、昔日の鮮烈な説教を思い出す。
詩はW・ミューラーの凡庸な作品といわれるが、シューベルトの曲により、名曲の生命を得た。恋を失い、荒野を彷徨う、孤独な若者の嘆き、悲しみ、それは年代や問題の壁を越えて、人間の根源的な深い嘆き、悲しみを歌い尽くす。
第一曲「おやすみ」最も愛する者に、別れの挨拶を心のうちで送り、旅立つ若者の前に荒野の道は果てしない。
第五曲「菩提樹」日本人に馴染み深いこの曲は、過ぎ去った愛の日々への追憶の思いを歌った痛恨の叫び。若い喜びを語り合った緑の木陰は、いまは寒風の天空に唯枯れ枝を伸ばしている。
第一三曲「郵便馬車」別れた恋人の消息を知る手紙を秘かに期待した郵便馬車。しかし、それは儚い幻滅に終り、更に骨を噛む孤独感が深まる。
第二四曲「辻音楽師」旅路の果て、辿りついた村外れの路上。年老いた手風琴弾きの前の皿はいつまでも空っぽだ。若者の心深く抱いてきた思いのように、永遠に満たされない。
「私の生きる人生とは、なにごとなのか?」孤独な悲しみと嘆きの問いを胸に、彼はその年老いた辻音楽師と共にいづこかへ去って行く。
彼の人生のからっぽな皿を満たすもの、それは唯「キリストの愛と希望」のみ。