作者不詳の俳句で『晴れ着縫う妬み心をもてあまし』というのがある。和服仕立でお客の正月用の晴れ着を縫っている女性の一瞬の本心を表現した作に違いない。『妬み』『嫉妬』『ジェラシー』。以前、地方の銀行で同僚の友人に顔に硫酸を浴びせられたミス〇〇の女性の話を聞いたことがあるが、それは何も女性だけのものではない。現代社会、特に多くの他の人と共に生きねばならぬ者にとって宿命的な人間の思いだ。或る娘の縁談に強硬に反対する親戚の真の理由が自分の娘より良縁に思えたためとか、同期入社の一方が自分より先に昇格したためとか、学問の世界で確かに自分より優れた論文や著述を発表されたためとか、当事者にとって真に心身を『嫉妬』の炎で焼きつくされる思いの時である。他者と共に生きる、しかも互いにありのままを認め合って生きる。そうした生き方を改めて求めている現在の私たち。しかし、それが却って他者を意識する機会を増し、『嫉妬』の思いをしばしば持たせることになるのでないかと、ひそかに案じる。いま、私たちは亡母へ届けられた多くの花々を遺骨の前に飾らせて頂いている。形、色、香り、それぞれ異なっているが、どれもが精一杯に咲いている様は見事に美しい。花は他の花を意識しないので、こんなに美しく咲けるものなのか。