障害者の生活には二重の意味で壁がある。まず肉体的・知能的・精神的な障害による壁であり、それに基づく社会的な偏見や差別による壁である。障害自体には介助器具や薬品の研究開発で以前よりかなり改善されて来ているのだが、社会的な偏見や差別の壁の問題は容易に解決されていない。多くの者が「差別」は不当だと思っているのに、なぜそれがなくならないのか。人と人との間の問題に始まり、我が国での被差別部落問題世界中で起こる激しい民族紛争の根っこには(当然政治的、経済的原因も大きいが)大体この差別意識の問題が常にひそんでいると思う。
これほど問題とされる個人の中にある差別意識。その原因は差別する者の心に深くひそむ人間的弱さによるのではないか。隣人を差別することによって、辛うじて支えられている孤立的な差別者自身。しかし、他者を差別することによって得られる自分自身の存在の肯定は、当然、たやすく別の他者からの差別によって否定される。そのとめどない繰り返しを断ち切ることにこそ、人間社会の安定と平和をもたらす出発点がある。人間的弱さを表わすものでしかない個々の差別意識を克服して、すべての人が真に生きる喜びを知るための根拠を求め続けよう。