霊媒に出てきた父

 二〇代の私が姉の家に寄食していた頃、理由の分らない病気にかかり、何日間か、昏睡状態になった。その間に九州の妹が上京してきたりして、大変心配をかけたそうだがその中で当時、姉が入会させられていた或る新興宗教の先達の強い勧めで「お調べ」をしてもらったそうである。それは病気についての霊媒による霊界への問い合わせのようなものであるという。そのとき、読経や祈禱をした後、私の父の霊が出てきて、私のことを「あのような身体障害者の姿でこれ以上生きさせるのに、親として忍びないから迎えに来た」と言ったそうである。父独特の四角張った語調で、霊媒の老婦人が語るのを聞いて、日ごろ比較的理性的な母や姉も、不思議で異様な気がしたとか。「体が悪くても、私たちは信頼して頼りにしているから、いまは連れていかないでくれ」と懸命に願ったところ、「それではやむをえない」と答えて父の霊は去ったという。

 この話を耳にする度に、私は複雑な思いを持つ。日本人特有の精神風土、家族主義的な情感を背景にした優しい「物語」である反面、この世が障害者の子どもを残して死んだ親たちにとって、心配で死にきれない程のきびしいものであることを、表わしているのだから。確かに、父親の霊が語った後に生きた私の人生もきびしかった。

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