暗い部屋からの電話

 「もしもし、おはようございます。いま、少しお話ししたいけどいい?」「いいですよ。その後どうしていましたか。お元気にしていましたか」「朝から隣りの小学校の校庭で、みんなで私の悪口を言うのが聞えるので、雨戸を全部閉めた二階の部屋に、いま、ひとりで座っています」「それでは暗いでしょう。雨戸は開けたがいい。誰もあなたの悪口など、言っていないからね」「いや違う。みんなで悪口ばかり言うのが耳を押さえても聞えてくるの」「それは困ったナァ。それでは気持が安まるときがないでしょう」「ええ、いつも何か不安な気分で」「気分転換に、思い切って少し外に出かけてみたら! 明るい外を見てくるのは、運動にもなるし…」「先日、親に言われてちょっと出かけたけれど、すぐ黒いコートを着た男の人に尾行されていることに気がつき、怖くなって必死に家に帰ったの。もう外に行くのはいやです」「あなたは何も悪いことをしていないから、そんなこと絶対ないよ。第一、世の中の人みんな忙しいから、あなたが考えるほど、あなたを注目してないよ。多くの人は互いに親切な無関心でいることが大事と思っているよ」「そう言うけど、私には世の中みんなが私をいつも責めていると思えて…」「あなたは私たちにとって大切な人だから、気を楽にして一緒に生きようね」

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