私たちの「美しい国・日本」

 どういう訳なのか、最近よく日本の童謡「赤とんぼ」や「ふるさと」などを耳にして、心の琴線に深くふれて懐かしい気分になることがある。それこそ「美しい国・日本」のイメージなのだろうか。しかし、こうした童謡が創られ歌われいた同時代に、一方では隣国への残酷な搾取や侵略が行われていたことを思うと、手放しに懐旧の思いにひたってはいられない。人も社会もすべて過ぎ去って、単純に過去のある時代の状況に戻ることはできないのに、為政者たちは「美しい国・日本」の掛け声の蔭で、再び強い軍事力を誇る日本になることを目指しているように思う。

 日本の童謡に感じる優しさ、かつての多くの日本人が共有していた礼儀正しさや律儀さ、郷土愛。それらをよみがえらせたいと望む気持ちは誰にでもある。しかし、そのことを国家的規模での教育でなされることは、歴史的体験から強く警戒せざるをえない。個人としての徳目を、国家の目標に利用されてしまったことによる、あの深刻な悲劇的敗戦の事実を、決して忘れてはならないと思う。私たちを産み出し、ただ一度の人生の歳月を刻んだ国・日本。いまこそ、内村鑑三の言葉にならって「われ、二つのJ(イエス・キリストとジャパン)を愛す」と叫びたい。

タイトルとURLをコピーしました