「韓国併合百年」の歴史の中で、併合三五年の後の六五年を顧みるとき、戦中・戦後責任を問う者にとり、特に思い出されるのは、軍事独裁政権下の韓国へ私たちが熱い思いを寄せた時期のことである。東西冷戦を背景に勃発した「朝鮮戦争」を経て、韓国には長い間、軍部による独裁政治が行われた。言論の自由は完全になく、人権無視の弾圧を強行、徹底した情報管理のため、東京で起きた金大中氏拉致事件の真相も、容易には知りえなかった。その最中に新書「韓国からの通信」が出た。抑えた筆致で韓国の内外の状況を多様に伝える内容は、政権内部からの情報ではないかとさえ想像させた。どんな方法で、この命がけの情報流出がなされているのか、「T・K生」という筆名と共に長くナゾだった。しかし、それは検閲の比較的楽な聖職者にメモを託し、それを日本で文章化したのは、ポーカーフェイスの池明観氏だったと後日聞きおどろいた。
いま、私たちは、東アジアの平和を熱く求めている。そのために最も緊要なのは朝鮮民主主義人民共和国との平和的な友好関係の回復と思う。それには、政治体制の違いを越えてお互いの国の現状を正確に知り合わなければならない。「北朝鮮からの通信」を切に待望している。