若者の悲嘆

 四〇年前の妹の話である。ある夜たくましい若者が来て玄関先で号泣した。

 「奥さんなして、こげんこつになったじゃろか。オイは切なか。

 オイが好いたおなごば、嫁女にしたけん、お袋が気に入らんこつぁ知ってたばってん、気にいらるるごつ、がんばらじゃこてと、かねて話し合いよったですたい。

 夕方、オイは仕事から帰り、家に一歩入って、空気で今日は仲良かごたると感じると、嬉しうて天にも昇る心地になるばってん、そうじゃなかと、真っ逆さまに地獄に落ち込んでいく思いじゃったとです。

 若いオイたちがこげん気ば使いよっとに、お袋は晩飯のおかずがハンバークで、気にいらんじゃったというだけで『私にゃ、食ぶる物はなんもなか』と皮肉ばいうて騒ぎ出したけん、女房どんも日頃の我慢がはじけて『そげんウチば好かっしゃらんなら、ウチは里に帰りますけん』とサッサと去んでしもたですたい。

 お袋に、少しでも『そんな我が侭言うんじゃなか』と言えば『お前が甘か顔ばしょるけん、いくらでん増長しよる』というて、全然言うことを聞かんとです。

 女房立てればお袋がきかんし、お袋立てれば女房が怒るし。去年、なかうどしていただいた奥さん、どうすりゃ良かか、よう教えて助けてくださらんですか」。

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