ある親しい者の集いでの自己紹介。「身体障害者である私は、若いとき自分が会社にも役所にも就職したことがないので、なんの役職につけなかったことを、ひそかにいささか残念に思っておりました。そこで歴史上で同じような思いの人間がいなかったかと調べていましたところ、いました、いました、いたのです。それは栄華を極めた平家の一門の中の平敦盛という人で、彼は比較的若かったから役職を与えられず、そのため『無官の太夫・敦盛』といわれていたそうです。自分と相似た境遇の人物を発見し、彼の無念さを思いやって、私はむしろ落ち着きました。そして彼と共通の思いを持った自分を現代の『無官の太夫・敦盛』と自認することで、ちょっとの間、大いに慰められ、励まされました。しかもさらに、歌舞伎やお能に出てくる『敦盛さん』は、たいがい水もしたたるイケメンの若者であり、それも私に最もふさわしいことと思いました。時に歴史をふりかえり、学び直すことで思いがけぬ勇気や希望を与えられることがあります」。語り終えた満足感にひたっている私の耳に、その時、呟く声が聞えた。
「でも、頭が禿げた平敦盛など、自分は聞いたことがないのだが」と。常に真実はいたって残酷である。